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白いシーツがよれよれになっていた。柳生はベッドの上でのんべんだらりとすごす。こんなに怠惰な一日をすごしていていいのだろうか、という不安はあったけれど、下半身の鈍痛でうごけなかった。
ゆっくり足をうごかすと、痛みがます。それにシーツに散った血がみえて不快だった。先ほどまで鮮血だったのに、いまはもうどす黒くかわっている。結構な時間が経ったのだと悟る。
仁王はシャワーを浴びていた。早くでてきてほしい。ひとりだと心細い。そんな心中がつうじたのか、浴室から扉のあく音。ああ、仁王がでてきた。
それから柳生もシャワーを浴びた。はじめて受けた身体の傷はすさまじく、浴室まで仁王に抱えられて移動した。仁王はひどく優しかった。
熱い湯を頭から全身に浴びていると、股の間からどろりと何かがあふれる。みるとそれは先ほどまでの情交の残骸だった。誰にみられたわけでもないのに、柳生は急に恥ずかしくなって掌で顔を覆う。
いくら好きだからといって、仁王の目に何もかもを曝けだしたのは、穴に入りたいほどの気分だ。
(あんな汚いところを舐められて、それに仁王君のが私のなかに入ってきて……)
おもいかえすと身体が震える。恐怖と羞恥と、ほんのかすかな男としての矜持がまざりあって、涙が滲んだ。悲しいわけでもないのに泣きたくなることもあるのだと、柳生ははじめて知った。
それは中学の卒業式の前日だった。
高校に進級すると、急に忙しくなった。二人の時間がなかなかとれず、柳生は勉強と練習の両立に四苦八苦していて、あまり仁王のことをかんがえている余裕はなくなっていた。
練習がおわるとあわただしく着替えて帰宅する毎日。今日は部活後の予定のために柳生はあわてていた。そこに仁王がくる。
「なー、今日ヒマ?」
「いえ、この後家庭教師の先生が来るので。……すみません」
さいごは視線をあわせずつげた。申し訳なくて顔をみれない。
「最近、ずっと忙しーんじゃの」
仁王の声はあきらめが混じっていた。
「すみませ」
「ちょっとこっち来ィ」
もういちどの謝罪をさえぎって腕をひかれると、ロッカーの影につれていかれる。
「仁王く……」
「しっ」
仁王はいたずらっこのように笑って口元に人差し指をたてた。おもわず口をつぐむ。
薄暗い影のなかで向かい合うと、世界がふたりだけのようにおもえた。仁王は優しいまなざしをしている。
「ちょっとだけ」
と、腕がのびてきた。
仁王の長い腕に抱きしめられる。おもってもみないことに、顔が熱くなった。仁王の体温を感じるなんて、中三のあの日以来だ。
(嬉しい)
そうおもっても、抱きかえすこともできない不器用な性格だった。
たってるだけしかできないのに、仁王は何もいわない。ただ、唇が耳朶にちかづくとビクッと身体が反応した。耳は感じやすい場所だ。
「何もせんて」
小声でささやかれる。それだけで背筋に快感がはしった。
何かしないというその台詞がもう何かしていることになっている。柳生は耐えられなくなった。
「仁王く、ん。あの、もう」
そっと柳生の身体をおしかえす。
恥ずかしくてたまらず、柳生は俯いた。耳まで熱くなっている顔をみられなくない。
「部活終わったあと、予定のないときなか?」
「日曜なら少しだけ」
日曜日は唯一家庭教師のない日だ。
「そんとき、ちょっとだけよか?」
俯いたまま頷いた。
「ンじゃ、つぎは日曜な」
仁王のいうまま約束をする。今まで勉強にむいていた気持ちが、一気に仁王に引きもどされる。
家に帰る道を足早にあるきながら、柳生の心は浮足だっていた。
たった一つの約束だけで、柳生の心は仁王でいっぱいになっていた。
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