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柳生先生と仁王君 01:家庭訪問編

高校教師生活三年目で、はじめてクラスを受けもつことになった。張り切っていたのも束の間、学年一の問題児、仁王雅治に手を焼かされることになってしまった。

今日はその問題児の家に家庭訪問をする日だ。高校にもなって家庭訪問が必要な生徒というのも大概であるが、まだ六月だというのに一週間も無断欠席なのだから仕方ない。家に連絡しても誰もつかまることもなく、噂では親に買い与えられたマンションで悠々自適の生活をおくっているらしい。
(こういうのが面倒だから、高校を選んだというのに)
ため息をついて眼鏡をおしあげた。生徒の家庭事情などどうでもいいし、ただ好きな教科だけを教えていればいいと思っていた。仁王の銀色の髪と、やんちゃそうな顔が頭にうかんで苛々がつのる。

柳生は大きく深呼吸してそれを打ち消した。これから会う相手に負の感情をみせるわけにはいかない。
住所を頼りに目的地に到着する。眼の前の建物は、噂とは程遠いものだった。昭和の香りただよう二階建てアパートの一室、ここが仁王の自宅だ。
「これが、買い与えられたマンションだって?まったく、人の噂とは本当にあてになりませんね」
生徒たちの間でまことしやかにささやかれている噂に呆れた。
該当の部屋をノックする。表札はなかった。ノックしてしばらくまったけど、反応がない。柳生はまたため息をついてもう一度扉をたたこうとしたその時、
「あれ?センセー」
背後からの声にふりかえると、仁王がたっていた。
「どーしたと?」
「どうした、ではないでしょう。私がきた理由はわかるでしょう」
「アー、サボりすぎ?」
「その通り。高校は義務教育ではないのですから、単位がなければ留年ですよ」
「ンー、はいはい。とりあえず入れば?」
仁王は鍵をあけることなくドアノブをひねった。
(鍵をかけてもいないのか。何て不用心な!)
驚いたのが伝わったのか、仁王は笑っていた。
「とられて困るモンなんてなか」

四畳半一間に簡易のキッチン、バスとトイレは一応ついているようだ。しかし、古い。その古さが汚くみえて、ついつま先で歩いてしまう。最低限の服と布団とテーブル以外は何もなく、つきあたりの窓からは風がそよび青色のカーテンがひらひらと揺れていた。
「一人ぐらしですか?」
「そーじゃ。親は九州。俺だけこっち」
「そうですか。ごはんはどうしているんです?ちゃんと食べているんですか?」
キッチンが使われた形跡がないことがきになってたずねた。
「センセー、女みてェ。ウザいぜよ、そういうの」
最近の子供なんて生意気な。心配をしてあげているのに、それを詮索ととらえるとは。
また苛々がつのる。
「あ、表情変わったのー。今イラっとしたじゃろ?ここに皺がよっとる」
と、仁王の指で眉間を指さされた。
それを掌ではらいながら、本題にはいった。
「無駄な会話がお嫌いなようですから、用件を申しあげます。仁王君、どうして学校にこないのですか?」
「まー、色々あるんじゃ」
「このままでは本当に留年しますよ」
「それもわかっとる。でも忙しいんじゃけェムリじゃ」
「何にそんなに忙しいんですか」
「それは秘密ぜよ」
「仁王君!」
理由もきけないのは困る。仁王につめよってその目を深くみつめた。
「仁王君、君は強いですか?」
「ン?まあそこそこ。あんま負けたコトないのー。もしかして力づく?」
「腕っぷしではありません。精神的に、です」
「ガラスのハートではなか。多分」
それをきいて、にっこりを笑った。
「それはよかった。ではいいますが、私は君の人生に興味などありません。君が何故学校に来ないのかも興味がないし知りたくもない。けれど教師として担任として、君の不登校を解決する義務がある。今日は来た以上、何らかの報告事案が欲しいんですよ。前向きなね」
仁王は呆気にとられていた。
「付け加えますと、来ないなら退学していただきたい。そうすればこんな面倒事に巻き込まれずにすみます」
「あんた、最低じゃな」
「教師も人間ですよ。聖人君子ではありません」
「俺、普通に傷ついたぜよ」
「おや、ガラスのハートでしたか」
「ガラスではなくても今のは傷つくじゃろ」
「で、どうするんですか?退学するなら段取りしますよ」
「って、俺を登校させるために来たんじゃなかと?」
「教師としてはそのような趣旨で来ていますよ。でもそれと私の本心は別です」
「大人って怖いのー」
「何ですか、もしかして構ってちゃんでしたか?相手がひいたら構いたくなるタイプですか?」
「センセー、俺まだ子供なんじゃけェ、ちっくと手加減しいや」
どうやら言いすぎたらしい。仁王は本当に傷ついた表情をしていた。
「なら、学校にきてください」
仁王は少し間をおいて、「わかった」といって顔をあげた。
「その代わり、条件があるぜよ」
(条件?何を偉そうにそんなことをいってくるのだろうか)
また眉間に皺をよせて仁王を見かえした。
「俺、一人で寂しいんじゃ。じゃけェ、毎日俺と一緒に晩メシ食べて?」
その言葉に、硬直するしかなかった。
「はあ!?!?!?!?」
「ダメ?」
「いや、待ちたまえ。何故私が自分のプライベートな時間を削ってまで、君とともに過ごさなくてはならないのですか」
「だって漫画とじゃと、センセーが親身になってくれたりしとるし」
「虚構と現実の区別もつかない子供と同じ空間にいたくはありません」
「じゃー、学校にもいかんし退学もせん。ついでにアンタにいわれたことをマスコミにいってやる」
形勢逆転。今度はこちらの分が悪くなる。
どうせ思いつきでいっていることだろうし、そのうち飽きるだろう。柳生はそれ以上抵抗せず、渋々承諾した。今後、卒業まで仁王と夕食タイムをすごすということを。


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